つりびな
桃の節句はもう過ぎてしまいましたが、福岡県柳川地方では「さげもん」と呼ばれるつりびなが季節を問わず家庭に飾られていることがあるそうです。さげもんを60年以上にわたって作っている酒井愛子さんの銀座での展示に遊びにいきました。江戸時代から続くその手工芸はとても緻密で繊細であるけれど、どこかひょうきんで愛くるしく、一般的な雛人形よりも親しみを感じました。
我が家の娘の初節句の際、雛人形を買ってくれると義父母がいうのでお言葉に甘えて百貨店にくりだしたところ、どれもかわいくない。日本人形って、顔が怖いのだ。私が子どものころは、雛人形の顔が怖いし、雛祭りの歌はなんだか物悲しいしで桜餅を食べることだけに専念していた記憶があり、娘の初節句のためとはいえ雛人形に期待はしていなかった。結局、まあまあこのくらいなら怖くもないし、値段、スペースともにかわいらしいのではないかという妥協のもとに雛人形を買った。その時、つりびなの存在を知っていれば迷うことなくそちらを買っただろう。つるしておけばいいのだから狭い住宅事情でも場所をとらないし、いちいちお内裏様が右だったっけ?と迷いながら人形を飾らなくてよいし、なにより美しいのである。
つりびなは、江戸時代に奥女中が着物の余った布で琴爪入れを作ったのがはじまりで、貧しくて雛人形が買えなかった庶民にも広まり、布団のはぎれなどで人形を作り、それをつるして飾っていた風習が今でも続いています。鶴(長生き)、ネズミ(子だくさん)、おかめ(愛嬌)、ひょうたん(無病息災)といった願いがこめられたアイテムが7×7=49個、毬を2個たして合計51個の飾りが下げられています。51という数は人生50年と言われていた時代に、1年でも長生きするようにという親心がしみこんでいます。
福岡のご出身で現在は東京にお住まいがある酒井さんは、つりびなを作って60年、家でもどこでも、ひまさえあれば常に手を動かしちりめん細工を作っていらっしゃるとのこと。展示会場には定番の毬はもちろんのこと、パンダや牛など定型外の人形もところせましとならび、海外からきたお客様もその美しさに足をとめ、日本土産として購入していました。
酒井さんの手から生み出される人形は美しくかわいらしいのはもちろん、伝統を踏襲しながらもいきいきとした茶目っ気に満ちあふれていました。男の子のひ孫さんに向けて作られた青いつりびなは、成長を祈る気持ちが一針一針に込められているようで、会場の中でもひときわ目立っていました。






